『雪に願うこと』

『雪に願うこと』を観た。
主な出演は伊勢谷友介佐藤浩市小泉今日子吹石一恵

北海道のばんえい競馬を通したリアルな生活を、挫折した男の視点で描く。
ばんえい競馬を初めて観たが、速さのみでは勝てないのが印象的。
勝つには力強さが必要なのだ。障害の前で、あえて手綱を引き、馬を止める。
その「待ち」で力をため、力を蓄えたら、手綱を放し、一気に駆け抜けるのだ。
駆け抜けるというよりは、障害を突破するために不可欠な動作だ。この動作が、
伊勢谷演じる男と重なる。

ベンチャーらしき会社を設立し、軌道に乗っていたのもつかの間、あるトラブルで、
会社は破産となってしまう。気がついたら、伊勢谷は兄である佐藤が調教師を
している帯広に戻っていた。ただでいさせてくれることはなく、嫌々ばんえい
競馬の馬の世話を始める。佐藤をはじめ、厩舎の仲間を生活をささえる小泉。
そして、佐藤の厩舎の馬に騎乗する女性騎手、吹石。厩舎の仲間たちと馬にふれあっていくうち、
馬への愛情が生まれてくる。伊勢谷が一生懸命愛し、世話した馬、ウンリュウ
負けられないレースで吹石が騎乗したとき、伊勢谷の新しい一歩を踏み出した。


序盤の伊勢谷のやる気のなさがリアルに映った。
自分の中で田舎を一時「消し」、世間を見返そうとしたくだりはなんかリアル。
演技の懸命さはよく伝わる。ココロだけでなく、佐藤に吹っ飛ばされるシーンが
とても印象的。

佐藤の口下手で、悩みのある様、想いを上手く伝えられず、つい手が出てしまう姿や、
馬や、仲間に対する愛を表現する姿はさすが。


また、作品の中の景色がすばらしい。
吹石の好きな橋もきれいだが、その橋へ向かう途中の山の連なりとその下に伸びる針葉樹林の
画は大好きだ。

もちろん馬の姿にも見とれる。力強さと1トンを超える大きな体は温かさがもらえる。


演者のなかでは、テツヲこと山本浩司が素晴しい。作品に純粋さと温かさを加える。


伊勢谷と佐藤の兄弟は不仲ではない。
想いを互いに上手く伝えられないのだ。だからぶっきら棒に突き放したり、力で伝えようとする。
でも、相手のことがわかっているからこそ、相手の考えを尊重し、思い遣る。
伊勢谷は兄を、馬を、北海道を見直した上で自分の道を進んでいくことを決めた。
自分の中のわだかまりを除き、希望を新たに詰めて、行った。

そもそも、帯広に帰ってきたことから、再生は始まったのかもしれない。